それからもう、五ヶ月以上経ったことになる。
大阪王将も、大晦日の今日は早仕舞いしたみたいだった。
ガラス窓の向こう、外からの光にぼんやり浮かび上がるテーブルには、残らず椅子が乗せられている。

七月一六日以降、美愛と樹は、毎週同じコースを帰っていた。
二一時二十分を過ぎたくらい。美愛がコンビニの前に立ってると、樹がやってくる。たまたま顔を合わせて、たまたま同じコースで駅まで歩く。『勘違いしないで』と、いつでも誰にでも、この話題が出るたびに美愛は言う。『待ち合わせとかしてないから』と。『偶然だから』と――言いながら美愛は、内心で自分に言い聞かせている。

(これで誤魔化せてるんだから、いいじゃない)

主に、性格の問題だ。
美愛が先を歩き、すぐ後を樹が歩く。
真後ろから見れば、わずかに肩が重なって見えるだろう。

二人が通る時間、いつも、靖国通りは暗い。
開いてる店といったら大阪王将とJRのガードの先のサンクスくらいで、今夜とどこが違うのかといったら、いま通り過ぎた大阪王将が開いてるかどうかくらいのものだ。

それでも、ずいぶん印象は変わる。
それは、きっと――美愛は思った。

(大事なのは、この場を満たしている光ではなく、そこを歩く私の印象に残る光、つまり……)

美愛には、信奉者がいる。
学校にも予備校にもだ。彼や彼女たちは、美愛の無愛想や目つきの悪さを『クールビューティー』と言い換えて賞賛の対象としている。彼らのそんな機転と優しさを、美愛は密かに讃えている。そこに皮肉はない。彼らが美愛の美貌を褒めそやすのと同じく、美愛も彼らに敬意を抱いていた。

そんなクールビューティーの美愛だが、時折、ぼーっとした考えに囚われることがある。
(……つまり、いつもなら開いてるって憶えてる店が閉まってるから、いつもより暗く感じるという……って、そのまんまじゃない)
それに気付いて赤面することも、しばしば。
(ばかだな、私。あー、やばい。顔、見せられんない)
美愛がいつも先を歩くのには、そういう理由もあった。

(でももう……バレちゃってるんだろうな)