肉の万世も、いつものコースに入っている。
万世橋を渡り、清澄端通りの交差点で右折すれば、後は一直線。その前に一息付く場所として、二人は肉の万世を使っていた。

でもそれは、万世の一階に、コンビニが出来てからだ。
牛の看板のビルに、中央通りに面した入り口から入ると、右に売店と喫茶店。左にコンビニスリーエフ。二人は、毎週スリーエフに寄って、コンビニ商品としては明らかに高額なソーセージやハムを眺めた後、店頭ドリップのコーヒーを買い、神田川側の店頭で飲むことにしている。ちなみに万世名物のカツサンドは、まだ買ったことがない。

ところでそんな二人には、ある疑問があった。
とても小さな、どうでもいい疑問だったのだが――
12月31日。
大晦日の今日、ついに解答がもたらされることとなった。
美愛が言った。

「この戦車の名前、わかったよ」

スリーエフの、中央通り側の入り口。
その脇に、アクリルの展示ケースがある。
二段になっていて、上の段はカツサンドが三種類。
そして下の段には、ペーパークラフトが展示されている。
戦車のペーパークラフトだ。
ふたつあって、ひとつは子猫。もうひとつは子犬くらいの大きさだった。
小さい方を指さして、美愛は言った。
「こっちは四号洗車」
大きい方は、
「マウスっていうんだって」
と。

そう言いながら、美愛は、そっと樹の反応を窺っていた。
(あ。ムッとしてる)
予想通りだった。

美愛のような特にオタクでもない女子が戦車の名前を知っているということは、きっと誰かに=男性に教わったに違いないと、男子高校生である樹は考えるに違いない、という予想を美愛はしていたのだが、見事に当たってたみたいだ。

樹の表情からは、嫉妬と困惑と同時に、それらを隠そうとする感情までもがありありと窺えて、美愛は満足する。罪悪感は、不思議なほどに皆無だ。きっとそれは、樹の感情の混乱と同じだけの何かが美愛の中にあるからなのだろう。それは、つまり――美愛は、考えるのをやめた。
顔が赤くなりそうだった。

「例の、親戚の人に聞いた」

そんな回答で、とりあえず樹は安堵してくれたみたいだった。

「そ、そうなんだ……」

今日は、いつもと違って、何も買わずにスリーエフを出た。
店を出たのも、BIGAPPLEを臨む神田川側ではなく、入ってきた中央通り側からだ。

「あ、あれ。何だろ?」

美愛が指さしたのは、中央通りを挟んだ向こう――マーチエキュート神田万世橋。
中央線のガード下を利用した商業施設は、今日はもう閉まっている。
問題は、その前に立つ人だった。

「ゔ……」
詰まった声を漏らす樹に、美愛は予感した。
「知ってる人?」
「う、うん……」
予感が当たった。
美愛は、さっきの樹の表情を思い出す。

すごい美人が、死ぬ寸前の動物みたいなダンスを踊っていた。