千嘉良が秋葉原に着いたのが、午後3時過ぎ。
これから向かうのはランチ営業と夜営業の区別の無い店だから、これで問題ない。

目当ての店には、10分もかからず着いた。

 
「ああ……山形くん?
いいよ。
もう、怒ってない。

戻ってこなくていい。
君は、君の自由を楽しんでよ。

いや、別にクビの宣告ってわけじゃないから。

うん。

まあ……なんとかなりそう。
っていうか、既にゴール目前。

昌平橋通りから南と、川から南は、全部カット。
そう。
だから、本番は……うん。

三菱東京UFJの前からスタートして、教会の辺りまで行って、長竹ビルまで直進したら、またそこで中央通りに戻る、みたいな。

多分、それくらいのルートだったら、変なオペさえしなかったら保つでしょ。
例のメモリーリークも、なんとか誤魔化せる。

うん。
うん……結局、抜本的な対処は、本番が終わってから。

私?

私は、一応テストっていうか……あ、そうだ。
これから、テストだけ手伝ってよ。

一緒にルートをなぞってくれるだけでいいから…………え?

いま、アキバじゃない?
じゃあ、どこにいるのよ――って、新潟!?」


地下にある店から地上に出ると、すっかり暗くなっていた。

ガードレールに腰掛け、千嘉良は、通りの向こうのドン・キホーテを眺めている。
ホットッドッグに、たこ焼き、クレープ……
売ってるものだけ見たら、まるで、あそこだけ縁日みたいだ。

ラーメンでお腹がいっぱいになってなかったら、ちょっと食べてみたかったかもしれない。

「4店、回ったか……」

結果として、今日、秋葉原に来たのは、大正解だった。
まず、最初に入った店が良かった。

濃厚鶏白湯がウリの店で、あえてあっさり味のラーメンを選んだのだが、さっぱりとした味わいが、逆にスープの素性の良さを伝えてきて、思わず、
「うまい……」
千嘉良は、呟いていた。
 
満足して店を出て、思った。
「もしかして……秋葉原のラーメンって、ヤバいんじゃないか?」
ネットの情報で分かったつもりになっていたが、これは、考えを改めるべきだろう。

そうと決まったら、後は早かった。
スマホで秋葉原のラーメン店を検索し、めぼしい店の中から、大晦日の今日も営業している店をピックアップした。

結果として、千嘉良が食したのは――

・最初に入った店の「あっさり鶏白湯らーめん」
・中太麺に麻婆豆腐風の餡がかかった「雷々麺」
・行列に、あと3人遅く並んでたら食べられなかった限定麺「至福の浅利そば」
・トンカツをトッピングした「ロース濃厚ラーメン」
 
――といったラーメンたちだった。

ラーメン屋が多い街はいくらでもある。
しかし、そういった街が、ラーメン激戦区と呼ばれるかどうかは、別だ。

両者の間には、明らかな境界線がある。
網羅されるジャンル、味のバラエティ、店舗間の緊張感、玉石混交ぶり……

今日、千嘉良が体験した秋葉原は、明らかに 『激戦区』側に足を踏み入れていた。

(また、この街に来るんだろうな)

千嘉良は思った。
この街に通って、この街のラーメンがどうなっていくのか、見てみたかった。
それに値する何かが、この街で起こっているような気がした。

そうしたら、こうも思えてきた。
(ここって――どういう街なんだ?)
と。



「嘘でしょ?
だって、君のメガネ、GPSだと、まだアキバだよ!?
昼間に逃げて、駅まで行ったかと思ったら、また外に出て、
ずーっと電気街をぐるぐる……おい。

いま、なんて言った?

メガネを、落とした?

電車に乗る時、人にぶつかって、その人のメガネと入れ替わった!?」

茜の視線の先では、パソコンの画面に地図が映しだされている。
点滅する光点が、いま留まっているのは――

中央通り、ドンキホーテの前。

「……………………マジかよ」

田茜と千嘉良が出会うまで、あと30分。