「分かってたんですか?」
ちょっと意外そうな顔をする茜に、

「うん。声を聞いて、なんとなく」

ポケットで、さっき貰った名刺を撫でながら、千嘉良は答えた。
茜が男性であることは、この名刺を貰った時から分かっていた。

(見かけだけじゃ、わからなかったけどね)

二人は、最初に会った場所と同じアキバ田代通り――UDX前に来ていた。

「そうだったんですか……気付いてないんだったら、言ったほうが良いのかな?とか思ってたんですよ――でも、聞いた通りでしたね」
「んん?」
「あなたと、駅でぶつかった後輩が言ってたんです。どんな人だった?って訊いたら『背が高くて、凄く男前の――女の人だった』って!」

「男前……」
その表現に、千嘉良は、ちょっと複雑な気持ちになる。

千嘉良は――
 
ラヲタであり、格闘技経験者であり、そして同時に、20代なかばの女子だった。


「あの……言っておいてなんだけど、さっき『男でしょ!?』って言っちゃったけど……失礼じゃなかった?」

「気にしないでください。私、こんな顔で、こんな格好で、こんな言葉遣いですけど、アティチュードにおいては男らしくあろうと思っていますし、それに、その……女性を愛せないというか、女性から愛されたいと思っていないといういうわけではないですから」
 
「え、あの……それって」
「女性が、恋愛対象だということです」
「へ、へぇ……そうなんだ」
「何か?」
「いえいえいえ!」

ついつい緩んでしまいそうになる口元を、
(チャ、チャ、チャンスあるかもよおおおおっ!)
千嘉良は、顔を鷲掴みにして押さえた。


「でも、聞いてなかったです! こんなにきれいな人だっただなんて!」
「!」

(きれいな……人!)

炸裂する歓喜を、千嘉良は、今度はピーカブースタイルで必死に堪えた。

(きれいな人!)
(きれいな人!)
(きれいな人って言われた!)
(おおぉおおおおおおうおう!)
(うほっ!うほっ!うほっ!うほっ!うほぉおおおっ!!!!!)

「でも――どうしてあいつ、言わなかったんだろう?」

(ん?)

「私がヤキモチ焼くと思ったのかな? 彼」

(彼?)

嫌な予感がした。
おそるおそる、想像上のグローブから顔をあげると――

「あいつったら、そんなの気にしなくていいのに……ふふっ」

――そこには、紛うことなき、恋する乙女がいた。

(そ)
(う)
(い)
(う)
(こ)
(と)
(か)
(よぉおおおおおお――っ!!!!!!!!)

「あ、電話――彼からだ」
「どうぞ……出てください」
「それではお言葉に甘えて、失礼します――はい、私です。どうしたの?」

(『女性恋愛対象』なんて言ってたくせに、付き合ってるのは男かよ!)

「うん。いま、デモのリハーサルして……うん。そろそろ終わり」

(『女性恋愛対象』じゃなくて『女性恋愛対象』なんじゃないか!)

「うんうんうん…………え?」

(え?)

 「どうして……社長が一緒なの?」

いきなり温度の下がった茜の声に、千嘉良の眉がビクリと震えた。

茜と千嘉良が出会ってから、1時間と50分